最近では、安全で体に良い食べ物を手に入れるのが難しくなってきています。通常、売られている野菜は、慣行農法で栽培されたものがほとんどで、農薬や化学肥料が使われていて、体に良いとは思えません。そんなわけで、安全で美味しい食べ物を手に入れるにはどうしたらよいかを考えた時、私は自分で作ってみることにしたのです。
幸いなことに、わが小川町は、有機農法が盛んです。隣の熊谷市にある農業大学校の有機農業コースでも小川町の有機農業家が講師として教鞭をとっています。農業を始めるために調べる中でこのようなことを知り得たり、有機農業のメリットを深く理解できるようになったのです。
その結果、有機農業入門講座の受講を決めたわけです。その経緯と講座での学びや、結果どのようなスキルが身についたかも紹介していきます。
農業に全く触れたことのないサラリーマン人生だった私が、どのように取り組んだかを詳しく書きますので、これから自分で野菜を作ってみたい方の参考になると思います。
有機農業をどうやって始めるか
まずはじめに、どうやって学ぶと効果的なのか考え始めました。幸いなことに、私の家には少しばかりの畑があり、実践場所は用意されています。家族のものが多少の野菜を作る程度で、私はずっとサラリーマン一筋。畑作業をしたことはほぼありませんでした。
そんな私が農業をするというのですから、種をまけばいいのだろうくらいに考えていて、
家族からも、”そんな簡単なものじゃないよ”と言われる有様。
”種をまいたからできるわけでもないのよ”なんて言われていました。
少しばかり悔しい思いをしながらも、本で学べばいいかな?ネットにいろんな情報があるからそれを使えばできるかな?YouTubeの動画なんて役に立つよな?てなことで・・
わが小川町で有機農業といえば、霜里農場の金子美登、有機農業の草分け的存在の方です。
その方の理念と実行力にほれ込んでいる私が、
実際に購入した本はこれ👇
著者
金子美登
埼玉県小川町で霜里農場を経営
2009年に集落全体を有機農業へ転換させた実力者
1971年農水省農業者大学校の1期生として卒業したのち有機農業をスタートさせた。
本に加え、インターネットで色々なホームページを見て回りました。検索したキーワードは、有機農業,学ぶ,体験,始める・・など。またYouTube動画も見まくりましたけど、なかなか実感がわかないですね。
そりゃそうで、実際に畑を耕し種をまき手入れをし、収穫をする経験が全くないのですから。
そこで私は実際に作業をしながら教えてもらうことにし、それを実現する手立てを探し始めたのです。どのように教えてもらいたいかというと、とにかく作業中心の指導で、覚えたことが、すぐに実践で使えること。疑問点はその場で解決できることです。
まずは、新規に就農する人たちがどこに相談するか考え、思いついたのが町役場に相談に行くことで、すぐに小川町の役場に相談に出向きました。農林課の方と相談し、そこで初めて小川町有機農業入門講座というものがあることを知ったのです。
この講座をとおして、自分がどのような有機農業をしたいのかしたいのかを決めると良い、とのこと。どうやら有機農業といってもいろいろなスタイル,取り組み方があるようで、この時に私は初めて農業の奥深さというものを感じることになったのです。
この相談に行ったのが、確か8月頃だったかな。次の春から参加することに心を決めた私は、1つ目のハードルを超えた感じで、”よし、この講座で自分が目指す有機農業をまずは見極めよう” そんな思いで翌年春の4月を迎えたのでした。
講座が始まる前の半年間は、基本的な農業用語を理解すること、農作業と現在の仕事とのバランスのとり方、どのような道具を揃えるかなどを、本やインターネット情報で調べて準備をしました。
小川町有機農業入門講座の紹介
町役場の農林課で紹介された講座のメリットは、指導と実践が同時進行で体験でき、身に付きやすいことと、自分に合った有機農法のスタイルを見極められることにあると思います。自分に合った有機農法スタイルの決め方は、その人が農業をしていく中で手に入れやすいものを生かして農作業をすることにあります。
・開講期間
前期:毎年4月から9月
後期:毎年10月から3月
上記の通り6ヶ月を一期間として
受講することになります。
上の写真は、霜里農場隣にある旧下里分校です。左側の建屋で、農業塾の開講式が行われました。1期の期間は、半年間ですが、これで終わりにしてはもったいないですね、せめて1年は続けて、春夏秋冬で農作業を体験することが大切ですね。
その後、更に継続するのも良し、気に入った農家さんで、個別研修するも良し、仲間が出来たらグループで農業に取り組むのも良いですね。私の場合は、気の合った仲間と2年目の農業塾となり、自分の畑で少しづつ作り始めました。
栽培品目は、ジャガイモ,サトイモ,サツマイモ,玉ねぎ,ミニトマト,ズッキーニ,トウモロコシなど、変わったところでは、武州寒菜という菜の花の仲間。これは、横田農場さんからの頂き物。とりたては少し硬い葉っぱなのに火を通すと、程よく柔らかくなり奥深い苦みがあって、酒の肴に最高でした。
・費用
各期毎に5万円
・実施回数、時間
毎月第1第3の土曜日11時から5時まで
(合計12回)
上の写真は、旧下里分校の玄関部分。私の友人もここで学びました。
受講費用の5万円を高いとみるか安いと感じるかは、その人次第でしょうが、私としてはとても妥当ではないでしょうか。1日当たり4000円ちょっとですよ。1日5時間ほどですが、授業の前や終わった後の雑談が多く、これがとてもいい学びです。そんなことから、とてもいいあんばいの価格設定と感じますね。
授業の始まりが11時というのが、遅い気がしますが、遠方から通ってくる方が多く、配慮したというところです。授業の終わりは5時頃ですが、小川町の冬は、山間の為暗くなるのが早く、また冷え込みますので、防寒対策はしっかりしていって下さい。
・実施場所
小川町の4件の専業農家さんの各々の農場
・講師の先生方
(小川町の専業農家の4人の方)
霜里農場
風の丘ファーム
横田農場
河村農場
・講義内容:
講師である農家の方に一任されている
・定員:28名
7名で1班を構成し、各班が4つの農場に分かれて授業を受ける。
1農場、3回の授業)×4農場
旧下里分校の用務員棟を小川町が改修して作ったレストランがあり、名前は、MOZART。
NPO法人 霜里学校が運営しています。NPO霜里学校は、有機農業,里山など自然を生かした町創りの活動をしています。移住サポートも活発なので、ぜひ小川町にいらっしゃ~い。
ちょっと脱線しましたが、授業内容は先生である農家の方に一任されていて、各々の有機農法での授業です。例えば、マルチ(畝を覆うこと)にしても、紙マルチ,生分解性マルチ,木質チップマルチ,草マルチ、等、いろいろな方法があります。どれを使うか、なぜそれを選ぶのか、自分にはどれが合うのか、とても参考になりましたね。
受講しているのはどんな人たち
受講している人たちについて一言でいうなら、しっかりとした価値観を持っている人が多いということでしょうか。食べ物に対する安全性は当然のことながら、お金だけ稼げれば良いというような考え方を良しとしないとか、人とのつながりを求めるとか、とにかくしっかりと根を下ろした生活をしている、もしくはそういった生活を目指している方々が多いように感じています。
この講座に1年間在籍してみて色々な方と出会いました。皆さん決して近くはないところから毎回通って来られています。小川町は埼玉県の山沿いにありますが、東京や神奈川から来る人たちだけでなく、千葉の方もいましたね。
皆さんの仕事は、一般企業の方々,事業をしている方,看護師,介護士,専業主婦など、実に様々な職種の方がいて、特に特徴的なのは、新規に就農を目指している人がいたりします。2022年後期受講生のある若い男性は、講座終了後に徳島県で就農しましたね。このように実に多様な方がいて楽しく刺激的です。
年齢層は幅広く、20代から60代の方が参加していて、男女比は男性6割,女性4割といったところ。一番少ない年齢層は30代が男女とも少ないですね。子供さんが小さかったりして、また新規就農するには一番厳しい年齢なのでしょう。
このような講座環境で、講師の先生方や受講者の皆さんの考え方に触れ、多くの学びを得られることも、この講座の大きなメリットの一つだと思いますよ。
半年間も一緒に農作業をしていると、嘘偽りのない、その人となりの考えに触れることが多くて、社会をどう考え、本当はどんな社会であってほしいのかが伝わってきます。
日本の食料自給率や教育など、話題は多岐にわたり、皆さん真剣であるからこそ、こんな話題になるのだなあと思います。じゃあどうする・・少しでも自衛する・・自分で作る・・そんな風に考える人が多く集まっているのです。
このような畑にどっぷり浸かって過ごす有意義な時間
講義内容について
とにかく実践的
上の写真は、風の丘ファーム農場で、3月の授業の様子。大根のタネをまき、不織布をかけ防寒対策したところ。この作業の前に、1時間ほどの座学があって、大根などの根菜類は、直播をする理由などの説明があった。育苗してから定植する場合との違い等、説明を受けた後の作業でした。こんな風に、説明と作業が一緒に体験できるので、身に付きますね。
作業中は、手取り足取りの指導で、疑問に思ったことはその場ですぐに質問でき、実際に作業をしてみるといった形で進むのです。農業が初めての方などは、使われている言葉がわからなかったりして、初めは少し戸惑いもありますので、すぐに質問でき解決できることは大きなメリットではないでしょうか。
この後、少し遅いお昼タイム、お弁当持参ですよ!食べる場所は、農場によってマチマチ。先生方と食卓を囲んで食べる農場,農作業を小屋,天気が良ければ外で食べたりと、楽しい遠足気分のお昼タイムです。
それと特に女性に大切なトイレですが、先生宅で済ませてから農場に向かうようにします。農場にはトイレなありませんので、ご注意!農場は、みんな近場なので、急にもよおしても大丈夫です。
前期を受講される方への注意としては、着替えですね。着替えを用意した方がいいのは、田植えの時です。田んぼは、とても歩きにくくて、転んでしまうことがあります。特に遠方から電車で通う方は、田植えの時は、着替えを用意してくださいな。
私としてのおすすめメリット
このように、体を使って気持ちのいい汗を流しながら学びは、農業技術を覚えるというより身につくといった感じ。みんなのコミュニケーションが心地良いのも、習得の助けになっていました。良いコミュニケーションが生まれるきっかけは・・
- 安全なものが食べたいといった同じ思考がある
- 同じ場所,時間の共有からくるもの
- 自然が私たちに与えてくれる気持ちよさ
といったことなのかなと思います。
さらに、いろんな疑問についてのやり取りから、知見が広がりました。私としてのおすすめメリットしては、これを一番にあげたいところ。講義内容の特徴は”農業スキルを身に付けるための基礎がしっかりと身につくといった感じで、体が覚えますね。みんなすぐに仲良くなってしまうんです。
ある日の農作業
ある日の授業の流れは以下の通りです。作業としては3種類くらいの日が多いでしょうか。このくらいが、イメージとして定着しやすくてちょう良いと感じます。後々思い出しやすくて、血肉となるのです。
- 11:00 今日やる作業の説明(座学1時間くらい)
- 11:30 じゃがいもの植え付け~資料を使って説明あり
- 12:00 お昼)作業小屋でみんなでお弁当タイム
- 13:00 圃場(農場)に出て、ベッド(種や苗を植え付ける場所のこと)作り
- 14:00 ジャガイモの植え付け実作業
- 16:00 種まきのための土作り
- 17:00 ぼかし肥料を作り
この日の作業で一番ためになったのはじゃがいもの植え付けのこと。じゃがいもは春先に植えて夏前に収穫するものとばかり思っていましたが、秋作もできるということで、今年はそれにチャレンジしています。
秋作に適する種類は、レッドムーンとアンデスレッドとのこと、今年はレッドムーンで秋作にも挑戦。夏前に収穫し、一部を9月頃に植え付ける予定です。
一年やってみて得られたもの
1年間農業塾に参加してみての成果としては、有機農業は野菜を作ることだけを考えず、生物多様性の中で栽培していくことだとの認識に至ったことです。むやみに農薬や除草剤,化学肥料を使わずに、自然と折り合いをつけ、野菜を育てていくことに思いが至りました。
例えば、害虫にしても農薬を使うのではなく、バンカープランツといって植物で害虫を封じ込めたり、コンパニオンプランツといって数種類の作物を一緒に植えることにより相互作用で成長を促進したり、害虫を防いだりといった手法があることも分かりました。
いずれにしても、自分だけが良いとするような他者排除的な姿勢ではなく、共存共栄といった中で作物を育てているんだなぁと思います。
- 有機農法の基本
・播種
・育苗
・定植 - 肥料
・植物性堆肥
・ぼかし肥料
・木質チップ肥料
・雑草を肥料とする使い方 - 害虫対策
・バンカープランツ
・コンパニオンプランツ
・丈夫な苗にすることで害虫対策
木質チップを肥料とする使い方 - 連作障害の防ぎ方
- 自家採種や種の保存のやり方
1年が過ぎた頃の自分を振り返ると、本を読むとすんなりと理解でき、ネットの情報を見てもなるほどとわかり、YouTube動画を見ればそのやり方が自分に合っているのかどうかさえも判断できるようになっていました。
こうして自分の中に、有機農業というものが大きく成長していることを感じたのです。
農業の現場を実際に体験してみて、日本の農業事情を肌で感じることができましたし、今のままでは我々の子供や孫の世代が安心して食べていくことができないということも痛切に感じました。
みんなが食べ物の重要性にもっと関心を持ち、食べ物を作ってくれる方々をサポートしていくことが大切と思います。あとは実際に作業をやっていく中での試行錯誤となることでしょう。
なんたって農業は、天候相手、自然相手ですからね。
現在のマイファーム、習ったことを実践中
農業塾で習ったことを、自分の畑で実践中です。農業に対する考え方の中で、大きな気づきとなったのは、雑草,土,天候についてです。実践の前提となる心構えが、自分の中にしっかりと根付いた感じがしましたね。
雑草に対する考え方
雑草といえども無駄になるものは1つもありません。刈った雑草は、堆肥にしたり、畝を覆ったり(マルチといいます)して使ったりしています。
雑草を刈る時は、成長点の下を刈ると良いということも学びました。さらには雑草を堆肥として使うには、雑草が早く伸びてもらった方がいいわけなので、その場合は成長点の上を刈るということになります。
このように雑草の刈り方、活かし方についても大きな学びとなり、今私の畑では雑草も野菜作りの大切な仲間です。
毎年が1年生と言った先生の言葉が思い出されます。
”農業は、気候や土の状態など、自分の力だけで、できることではありません。
自然と上手に折り合いをつけ、自然の恵みを最大限取り入れられるよう、準備をする日々です。
最近は大きな災害の発生も増えるなか、未来の農業を考え、日々研鑽を積んでいく、そして次の世代につなげていくのだ ”というようなお話をされていました。
このような先生の考え方に触れ、自分の生き方を見直すようになり、農ある暮らしの大切さを強く感じています。
まとめ
有機農業と言っても様々なスタイルがあり、始めるにあたって、スタイルを選ぶ大切さを理解していただければ、この記事が役立ったということではないでしょうか。
私は、スタイルを決めるのに、プロの農家さんから指導を得ることを選択しました。自分の身の回りで手に入れやすいもの、それが私にとっては雑草を肥料としたり、畝を覆ったり(マルチともいいます))として使うということです。さらには。バンカープランツとかコンパニオンプランツの手法を使って、農薬を使わず栽培できることも知りました。
こうしたことを知り得たのは小川町有機農業塾で、プロの農家さんの指導と実践をする中で、自分の感覚と照らし合わせ、選択できたものと思います。自分で安全な食べ物、野菜を作り、食べてみたいと考えている方は、ぜひとも有機農法で作られることをおすすめします。
そして、プロの有機農家の方から学ぶことの有意義さを感じていただけたら、この記事を書いた甲斐があるというものです。